糖転移ヘスペリジン研究報告 詳細

研究会での発表

骨粗鬆症モデル動物におけるヘスペリジンの骨・脂質・糖代謝調節作用

上原万里子:東京農業大学 応用生物科学部 栄養科学科/第1回研究発表会にて(2009.11.30)

コレステロール合成の律速酵素であるHMG-CoA還元酵素との競合阻害によりコレステロール低下作用を有する薬剤はスタチン系薬剤とよばれ、脂質異常症の治療薬として用いられてきた。1999年、Science誌上にスタチン系薬剤が骨形成タンパク質(BMP-2)の産生を介して骨形成を促進するという知見が発表された。このMundyらの研究により、スタチンは閉経後骨粗鬆症モデルである卵巣摘出(OVX)動物に対する海綿骨量および骨形速度の増加に加え、破骨細胞数の減少を促進し、骨吸収抑制にもはたらくことが示唆された(図1)。一方、このスタチンの骨代謝に対する知見が発表された同年、柑橘系フラボノイドはHMG-CoA 還元酵素阻害を介して血漿および肝臓脂質量の増加抑制作用を示すとの報告もなされた。演者らは、この報告とMundyらの報告をすり併せることにより、HMG-CoA還元酵素阻害作用をもつ柑橘系フラボノイドは骨量減少抑制に寄与する可能性を推測し、OVXマウスにヘスペリジンを投与した。また、この試験では、通常の疎水性の強いヘスペリジンと、酵素処理による糖転移を施し水溶性を一万倍に高めたα-グルコシル(αG)へスペリジンの2種を経口摂取させた。4週間後、OVXによる大腿骨の骨量減少および肝臓・血中コレステロールの増加傾向が確認され、両ヘスペリジン投与により、その骨量減少およびコレステロール増加は抑制された(図2)。酵素処理の有無による効果の違いはOVXによる破骨細胞数および破骨細胞面増加にあらわれ、αGヘスペリジン投与で、より強い抑制作用を示した(図3)。その後、演者らは男性骨粗鬆症モデルである精巣摘出(ORX)マウス、マグネシウム(Mg)欠乏ラットを用いた試験においてもヘスペリジンは骨量減少ならびに脂質量増加を抑制し、その効果はいずれもaGヘスペリジンで、より強くあらわれる傾向を確認した。また、最近、Trzeciakiewiczらの in vitro試験において、ヘスペレチンはBMPの活性化により骨芽細胞の分化を調節していることも報告され、スタチン同様、コレステロール合成律速酵素阻害を介した骨形成促進あるいは骨吸収抑制作用を示す可能性が示唆されている。さらに演者らは、OVXに代表される原発性のみならず、続発性骨粗鬆症モデルとなる2型糖尿病を発症するGoto-Kakizaki (GK)ラットおよび正常なWistarラットにおいてヘスペリジンおよびβ-シクロデキストリン(CD)で包接したヘスペレチン投与(8週間)の効果を比較したところ(図4)、GKラットの糖・脂質代謝改善と共に(図5~7)、糖尿病による骨量減少抑制作用を示すことを確認した(図8)。これらの作用機序を検討するため、Real-Time PCRを用いて関連遺伝子発現の変動を検討したところ、ヘスペリジンおよびCD-ヘスペレチンに投与による肝臓PPARγmRNA発現増加に伴う糖・脂質代謝改善、HMG-CoA 還元酵素mRNA発現低下に伴うコレステロール合成抑制が示唆され、さらに骨TNF-α、IL-1β、RANKL、TRAF6 のmRNA発現低下に伴う破骨細胞の分化・活性化抑制と、IGF-1、Col1α1の mRNA発現上昇に伴う骨芽細胞活性化に関与している可能性が示唆された。

 

  • 図1)スタチンの骨に対する作用機序とコレステロール合成経路
  • 図2)血清総コレステロール濃度および大腿骨・骨密度
  • 図3)海綿骨・破骨細胞数(N.Oc/B.Pm)および破骨細胞面(Oc.S/BS)
  • 図4)GKラット試験計画
  • 図5)Blood glucose
  • 図6)血清ヘスペレチンおよび肝臓糖代謝関連酵素活性
  • 図7)肝臓総コレステロール(TC)および中性脂肪量(TG)
  • 図8)大腿骨・骨密度(BMD)および骨強度(Breaking Force)